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2週間たつとしょうちゃんは大阪へ戻っていった。見送ったりはしなかった。当日の朝、『戻るわ』とメールが来ただけだったし。どこかそっけない連絡にはたしかにさみしさも感じたけど、これでいいような気もした。

わたしたちはもしかするとうまくいってないのかもしれないな、と本格的に思い始めたのは12月に入ってから。お互いに連絡の頻度ががくんと減ったのだ。もうセンター1か月前だからしょうがないよね、という言い訳を必死で頭のなかにならべた。わたしたちはたぶん、付き合う前のほうが頻繁にメールを送りあっていた。



12月6日、師走最初の木曜。みっちゃんとのゴハンは相変わらず続いているわけだが、はじめて待たされることになった。委員会の関係で先生に呼び出されてるから6組にいて、だって。

どうせ下駄箱でいったん別れるんだから2組で時間つぶしてたっていいじゃん。理系クラスって男くさいからあんまり好きじゃないんだ。それに文系のことちょっとバカにしてる感じがするし……。まあ、これはコンプレックスにまみれた被害妄想だけど。

それでも、心のなかで理不尽な文句をダラダラ垂れながらも、なんだかんだわたしは6組へ向かってしまう。だってみっちゃんからのお達しなのだから仕方ないね。

ひょこっと覗いた3年6組の教室には、水樹くんがいた。見事にばちっと目が合ってしまった。ウワッ。


「お、川野さんじゃん。久しぶり」


思わず声に出してウワッて言っちゃったよ!

水樹くんはあからさまに苦笑を浮かべて、まだ生徒の残っている教室から廊下へ出てきてくれた。


「『ウワッ』はないっしょ」


重たいひとえのたれ目がスッゴイ傷つきましたってまなざしを向けてきたけど、こんなのは演技だね。もう知っている。


「川野さんってほんとおれだけに厳しいよなぁ」

「えー、それはみっちゃんと3年間ずっといっしょのクラスなのが悪いんじゃん?」

「いや、それぜんぜんおれ悪くないし」


そうだけど。

でも、水樹くんってどうしてもすべてをつかみきれなくて嫌。みっちゃんとは違う涼しい感じ、喜怒哀楽の“楽”以外がまるっと欠落してしまっている感じ。

きっと彼は彼なりに悩みとか、いろいろあるんだろうけどさ。絶対に他人にはそういう顔を見せないスタンス、サイボーグみたいで少しこわいと思ってしまう。