「痛えな、阿呆」

「うるさい、馬鹿」

「本当のこと言っただけだろ、デブ」

「言っていいことと悪いことの区別もつかないわけ、ガキ」


まるで小学生みたいな口喧嘩をしているなと思ったら、急におかしくなってきて、笑いが込み上げてきた。


青磁が子供みたいだから、私までつられて子供に戻ってしまう。


くすくす笑いながら立ち上がると、青磁がすっと腕をあげて、私の背後を指差した。

つられて振り向く。


そこには、一面の青。

見渡す限りの青空が、三六〇度、ぐるりと私を取り囲んでいた。


息を呑む。

こんなふうに空を見たのは初めてだった。


このあたりには高い建物がなくて、四階建ての屋上であるここが、一番高い場所だった。


視界を遮るものがない。


どこを見ても、空だけがある。

青磁の描いていたのと同じくらい、美しい空が。


そうか、と心の中で呟いた。


あの絵を見たとき、青磁の目には綺麗な空が見えているのだと思っていた。

私の目には綺麗なものは映らないのに、と思っていた。


でも、違った。

綺麗な景色はこんなにも近くに、いつもここにあったのだ。


私がそれを見ていなかっただけで。

見ようとしていなかっただけで。


いつだって、綺麗な世界はそこにあった。