バスが揺れる。うしろの席の男子生徒たちが、「ハラへった〜」とのんきな声で話している。私も昼食を食べてないからお腹がすいていたはずだけれど、今はまったく空腹を感じない。

「アメ、持ってる?」
「……持ってます、けど」
「ちょーだい」

バス停で一旦止まって再発進するバスの揺れに、私の肩がまた先輩に当たる。真昼の空は夕方のそれとは違って、雲がかかっているというのに明るく私たちを見おろしている。そんな白昼下で、このバスっていう箱みたいに閉じられた空間の中、区切りのひとつに押しこめられて隣同士肩の触れあう位置にいる先輩と私。

なんだか滑稽でならない。そして、それにいちいち心拍をあげていることが、まるで無意味なことに思えてくる。

でも……。

隣の先輩からのレモン飴の匂い、時折聞こえる口の中で飴を転がす音。そのひとつひとつに、やっぱりいちいち心が反応してしまうんだ。この人のことを好きだということをまた、自覚させられるんだ。