しんしんと、外は冷たい雨が降っている。
流れていく景色を視界に捉えながら、私は痛む心に精一杯蓋をした。
こんな雨の日は、嫌でも思い出してしまうから。
雨の中を必死に走ったあの日。あの時、消えてしまったものの尊さを。
「……、」
職員室までの道程を歩いている途中で、私はふと、足を止めた。
見上げた先にある階段。
その階段を上れば─── 1ヶ月前。今日という未来へと私を連れてきてくれた、始まりの場所がある。
時間がない。だけど、どうしてもここから動くことができない。
気が付けば私は、そこに繋がる階段を、一歩一歩上っていた。
約、1ヶ月ぶりのドアノブに手を掛けると、相変わらず鈍い音を立てて扉が開く。
目の前に、広がる景色。
気休め程度の屋根のついた入口の傍で、雨宿りをするように空を見上げれば、不意に涙が溢れだして私の頬を冷たく濡らした。