「……っ、」
幼い頃、満面の笑みでそう言った私の声が鮮明に蘇り、思わず逃げるように視線を下へと落としてしまった。
あの時も、今と同じように。笑顔でそう言った私に、お母さんは「そう……」と嬉しそうに微笑み返してくれたんだ。
ずっとずっと、憧れだった。
ずっとずっと、お母さんは私の自慢だった。
おじいちゃんのお見舞いの為に、お母さんの働く病院に初めて来て、初めて看護師として働くお母さんを見た、あの日から。
たくさんの人に優しく微笑みかけながら、たくさんの人に頼りにされ、困っている人の為に働くお母さんを見て、私はとても誇らしかった。
「ミウ、どうしたの?」
─── 私が産まれてすぐ、お母さんとお父さんは離婚した。原因は、お父さんの浮気だったと、おじいちゃんから聞かされた。
それまで一度もお母さんは私に離婚の原因を話してくれたことはなくて、幼い私が尋ねれば「お父さんとは、一緒にいられない理由があったの」と、優しく諭すだけだった。
もちろんそれに、疑問を覚えなかったわけじゃない。小さい頃は、お父さんがいる友達を羨ましく思ったことだってある。
それでも、私が何を言おうと、お母さんは今日まで一度も私の前でお父さんのことを悪く言うことはしなかった。
女手一つで子供を育てることが、どれだけ大変なことなのか、たった17歳の私には想像することもできない。
だけどお母さんはいつでも私を守り、大切に育ててくれたんだ。
何不自由ない生活を、周りのみんなと同じような生活を、私にさせてくれている。
私が学校に通えるのも、ユリやカズくん、雨先輩と毎日を過ごせるのもお母さんがいてくれたお陰だ。