樹生先輩のこと。
大好きな先輩の真実を伝えたいのに、私が知ってる先輩の良いところを伝えたいのに、何もかも言葉にならなくて、胸いっぱいに悔しさが込み上げる。
声が出ないことを、こんなにも悔しいと思ったことなんてここ数年、一度もなかった。
声が出て欲しいと、こんなにも願ったのも、いつぶりかわからない。
教室にいるみんなの視線が痛い。
だけど今は、そんなことに気を払っている余裕は少しもなかった。
「……っ、」
ぽろり、と。ついに大粒の涙が頬を伝って零れ落ちれば、それは教室の床に音もなく染み込んだ。
それだけがやけにリアルで、そんな私の顔を見た蓮司がその表情を悲痛に歪めたけれど、それさえも今の私には怒りを煽る要因にしかならなかった。