再び声を張り上げた蓮司に、一瞬教室が静寂に包まれた。
けれど、声を上げたのが蓮司だとわかったみんなは、「いつものことか」と雑談を再開させていく。
そんな中、私はといえば─── ゆっくりとペンを手に持つと、アユちゃんが開いてくれたノートへ筆を走らせた。
先輩が、痴漢から助けてくれた人であること。
それから、生徒手帳を拾ってくれたことから事情を知った先輩が空いている車両を教えてくれて、毎朝一緒に乗ってくれていること。
先輩とはそれだけで、それ以上何かがあるわけではないこと。
それらの事実をノートに書き連ねると、先輩との関係が酷く薄っぺらに思えてなんだか無性に寂しくなって。
私は視線を下に落としたままノートを蓮司へと手渡した。