「……なぁ、栞。ソウマ イツキって知ってるか?」



─── それは、思いもよらぬ人物から知らされた【話】だった。




制服も夏服に変わり、新しいクラスにもすっかりと慣れた頃。


その質問は、唐突に私へと投げられた。


視線を上げた先、相変わらず騒がしい教室で、眉間にシワを寄せた蓮司が険しい表情で私を真っ直ぐに見下ろしている。



「……栞。知ってるかって、聞いてんだけど」


「……、」


「……なぁ、」


「(あ……、うん、知ってる……よ?)」



思わず曖昧な返事をしてしまったのは、まさか蓮司の口から先輩の名前が出てくるだなんて少しも考えていなかったから。


低い声に返事を催促されて、私は視線を泳がせながら俯くように頷いた。