いつかも聞いた言葉と、同じ台詞。


驚きに、弾けるように声がした方へと振り向けば、ほんの少し息を切らした、不機嫌な表情の樹生先輩が乱れた髪をかきあげながら、しゃがみ込む私を真っ直ぐに見つめていた。



「……追い駆けてこなかったら、栞の家まで押し掛けてやろうかと思ってたけど」



そう言う先輩の言葉は嘘か、本当か。


それでも羽根の生えた蝶のようにゆっくりと、私の元まで歩いてきた先輩は、地面に蹲る私の目の前でその足を止めた。



「俺は、一度言ったことを繰り返し言うのは好きじゃないから。だから、栞の強さに賭けたけど……“今まで、ありがとうございました”なんて言われた時は、さすがにちょっと堪えた」


「っ、」


「でも……追い駆けてきたから……ギリギリ、許す」



そうして、次の瞬間、ふわり、と。


しゃがみ込んでいた私を包み込むように抱き締めた先輩は、「不安にさせた仕返しかと思った……」なんて、溜め息と共に消え入るような声で言葉を零す。


そんな先輩の身体に腕を廻し、ジャケットをギュッと掴むと先輩の胸に再び縋るように顔を埋めた。