「……俺の方こそ、今日まで本当に、ありがとう」



─── 泣くな。泣くな。泣いたら、ダメだ。



「栞と出会えて、本当によかった。俺の方こそ、出会ってくれて、本当にありがとう」



そう言うと、とても綺麗に微笑んだ先輩は、たった一度だけ私の髪に触れると迷うことなく私に背を向け歩き出した。


それに寂しさを覚えてしまう身勝手な自分が嫌になる。


段々と小さくなっていく先輩の背中。


離れていく先輩の温もりを痛いほど感じて、再び目には涙が滲み、先輩が見えなくなっていく。


改札を抜け、階段を降り、いよいよ先輩の背中すら見えなくなったところで─── 私は崩れるようにその場にしゃがみ込んだ。



「……っ、っ」



涙が堰を切ったように溢れだして、アスファルトにいくつものシミを作った。


だって、だって、だって……っ。


先輩の未来は、私の想像では追い付かないくらいに輝きに満ちていて。


両手では抱えきれないほどの希望で溢れていて、目が眩むくらいに眩しい。


先輩はこれから大学生になり、今以上に素敵な人になるのだろう。


夢を叶え、お医者さんになったら、たくさんの人の光になるんだろう。


─── そんな先輩のそばで、私に何が出来るっていうの。


私みたいな、先輩に迷惑しか掛けられない奴が。


先輩の為に何か出来るはずもないのに、今まで通りに隣になんていられるはずがない。