空高く羽ばたいていこうとする先輩の足を引っ張るような、そんな存在がそばにあったらいけない。
これから先、抜けるような青空の果て、輝く太陽を目指して羽ばたく先輩が、足元の雑草に気を取られていてはいけない。
顔を上げ、微笑みながら先輩を見上げれば、動揺に瞳を揺らす先輩が私を真っ直ぐに見下ろしていた。
ああ、そうだ。3ヶ月前のあの日も、結局先輩には想いを告げることができなかったけれど、結局今日も伝えられない。
ということは、やっぱり先輩には伝えてはいけない言葉だったんだろう。
これは、伝えてはいけない、想いだったんだろう。
【 好 き 】
たった2文字の言葉は、こんなにも遠く、こんなにも声にならない。
けれどそれは、この先もきっと、先輩へ渡すことはないだろう。
「(それじゃあ、私は、帰りますね。もうすぐ暗くなっちゃいますし、先輩も、気を付けて帰ってください)」
「栞……俺は……、」
「(あ、でも。せっかくなので、見送りだけ、させてください。これで本当に、最後、なので)」
言いながら再び涙が込み上げてきて、私はそれを堪える為に後ろ手で組んだ腕を抓り、走る痛みで必死に涙を誤魔化した。
そんな私を見て動揺を見せていた先輩も、ついに諦めたように一度だけ小さく息を吐くと、今度は何かを決意したような瞳で私を見つめる。