そう、そうだよ。私には、勿体無い。


やっぱり、樹生先輩は。先輩は、私の手に負えるような人じゃなかった。


私みたいな雑草には到底手の届かない、美しい羽を持った蝶のような人だから。


その羽根が大きく開き、空高く羽ばたくのを邪魔してはいけない。


私と樹生先輩は、こうして出会えたことすら途方もない奇跡だった。


夢のような奇跡……、だったんだ。



「(私の、方こそ……ありがとう、ございます。先輩と出会えて、先輩と……こうして、喜びを分かち合うことが出来て。私は、先輩と出会ってから、本当にたくさんの幸せを貰いました……)」


「栞……?」


「(先輩のこと、応援してます。大学に行っても、ずっとずっと。お医者さんになるっていう先輩の夢が叶うように、遠くから、ずっとずっと応援してます)」


「っ、」



ゆっくりと、先輩の胸に埋めていた顔を上げた私は自分の手で涙を拭うと、先輩から一歩後ろへ足を引き、大好きな先輩を見上げて精一杯の笑顔を見せる。


そう、きっと。これが私が先輩に出来る、最初で最後の恩返しだから。



「(……樹生先輩。今日まで、本当にありがとうございました)」



そう言って、一度だけ深々と頭を下げれば、先輩が小さく息を呑んだのがわかった。


だけど、これが“今”の私にできる精一杯。


先輩と出会ったこの駅で、大好きな樹生先輩にサヨナラを告げることが今の私に出来る精一杯だったんだ。