「っ、」
「そろそろ帰らないと、外も暗くなって危ないよ?」
だけど、顔を上げた先。
何度も何度も聞きたいと願っていた樹生先輩の柔らかな声と甘い香りが鼻腔をくすぐって、思わず何度も瞬きを繰り返す。
─── ああ。
私は未だに眠っていて、夢を見てるんだ。
なんて幸せで、都合の良い夢だろう。
だって、今、目の前には。
私が座っている向かいの席には、今日まで何度想ったかわからない、大好きな樹生先輩が座っていて、私を見ながら微笑んでいるんだから。
「……っていうか、そう言うならもっと早く起こせって感じだけど。良く寝てたから、起こすの可哀想で」
「(せん……ぱい……?)」
「……なんてね。ホントは、栞の寝顔を盗み見してただけなんだけど」