「……ごめん、栞」
賑やかな空気とは対象的に、雨粒のように小さく零した言葉が届くことはないだろう。
凍えきった窓枠に手を掛け窓を開ければ、冬の凍るような風が頬を撫でた。
─── 本当は、会いたくてたまらない。
会って、君は少しも悪くないのだと何度でも伝えたい。
いつだって俺を真っ直ぐに見つめるその瞳を、俺だけに向けていてほしい。
そして─── その瞳に答えるように、胸の内に刻んだ決意を今すぐにでも伝えたい。
窓の縁に肘を乗せ、白くくすんだ冬の空を見上げれば、吐き出した息さえもその白に染められた。
まるで、栞と自分を見てるみたいだ。
どこまでも真っ白な、彼女のようなその儚い色に、そっと瞼を閉じれば彼女が俺を見つける度に見せた、花のような笑顔が浮かぶ。
その笑顔に、今日まで何度助けられただろう。
何度、導いてもらっただろう。
─── “ねぇ、先輩”。
凍えるような冬の寒さにも、もう決して負けないように。
優しく儚いその花が枯れることのないように、俺は改めて、胸に刻んだ決意の大地を強く強く踏みしめた。