「それで?あれから樹生先輩とは会えてないの?」
制服ももうスッカリと冬服に変わり、そろそろコート無しでは寒さに勝てなくなってきた頃。
その美しい顔には不釣り合いなほど、眉間に深いシワを刻んだアユちゃんは言いながら溜め息を吐いた。
「(……うん。先輩とは、会ってないよ)」
それに曖昧な笑みを零せば、切なげに眉尻を下げるアユちゃん。
─── あれから結局、何度樹生先輩に連絡をしても、先輩から返事が返ってくることはなくて。
だけど、それでも諦めることなんかできなかった私は、再び樹生先輩の通う高校に行き、アキさんに会って話をした。
そして、その時にアキさんから、樹生先輩の状況と一通りの事情を聞かされた。
なんでも先輩は、あのことをキッカケに、一人暮らしをしていたマンションの部屋を引き払い、今はお父さんと一緒に生活しているということ。
アキさんから話を聞いたその日に、改めて先輩が住んでいたマンションの部屋の扉の前まで行くと、先輩に最後に会った日にはまだあった、【SOUMA】と書かれた札が、無くなっていた。
それに、言葉にできない程の寂しさを感じた私は、本当に身勝手な奴だ。
そして、そんな私の心情を見透かしたように、先輩にどうしても会わせてもらえないかとお願いする私へ、ユキさんは切なげに眉を寄せながらこう言った。
「……樹生が栞ちゃんには会いたくないって言ってるんだ」、と。