切れる息を整える余裕もなく瞬きを繰り返せば、目の前には両手を広げて私の行く手を阻むタマさん。


そのタマさんは先程までとはまるで違う、揺るぎない強さを宿した瞳を私に向けていて、思わず息を呑んでしまう。



「もしかして、先生に会いに行くつもり?だとしたら、シオリンが今ここで、先生に会いに行ったりしたら、樹生の気持ちはどうなんの?」


「(せ、先輩の気持ち……?)」


「殴っちゃったのは、確かに衝動的にやったことかもしんないけど。だけど樹生は頭良いし、多かれ少なかれ処分を下されることも、大学の推薦が取り消しになることも全部わかった上で……それでも、守りたかったんじゃねーの」


「っ、」


「シオリンのこと。シオリンが巻き込まれないように、これ以上周りから傷つけられることがないように、守りたかったんだよ。だから樹生は最後までシオリンの名前を出さなかったし、サッカー部の後輩連中だって、そういう樹生の気持ちを汲んで名前はわからないって言い張ってくれた」



そう言うと、「なんで女って、そういう男心はちっともわかってくれないんだろ」なんて、大袈裟に溜め息を吐き、タマさんは続ける。



「だから、もしも今、シオリンが先生に会いに行ったら、そういう樹生の行動も気持ちも全部無駄になっちゃうんだよ。シオリンが先生に何もかも話して少しでも巻き込まれたりしたら、樹生は今以上に自分を責めるに決まってる」



─── そういう、面倒くさいくらいお人好しで繊細な奴なんだよね、俺の親友は。