そこまで言うと再び自嘲の笑みを零して俯いた彼女は、持っていた携帯電話を静かに鞄へとしまった。
部屋には壊れたラジオのような雨音だけが響き、寂しさが俺たちを包み込む。
その静寂に、栞も俺も決して抗おうとはせず、ただひたすらに時間に身を預けた。
─── それからどれくらい、声のない時間が続いたのかはわからない。
けれど、ゆっくりと。
再び高鳴りだした鼓動に任せるように、俺は小さく深呼吸をすると、未だ窓を叩く雨音に沿って静かに口を開いた。
「……嫌な話、なんかじゃない。だけど、すごく……苦しくて哀しい、話だった」
「……っ、」
「俺のために話して、なんて。そんな無神経なお願いをして、ホントにごめん。デリカシーのないお願いだった。でも……俺は、それでも、」
「……、」
「……それでも、俺は栞の言葉で聞けてよかったって思ってる。俺の方こそ……話してくれて、ありがとう」