「……もしかして、平塚─── 栞さん?」
突然声を掛けられて、誰?と思って首を傾げると、その男の人は私を見て厭らしい笑みを浮かべた。
手にはお世辞にも綺麗とは言えない真っ黒な手帳と、ノック式のボールペン。
肩にはカメラがぶら下げられていて、よれたスーツには得体のしれない液体のようなものがシミとなってこびり付いている。
「─── お父さんが、以前から様子がおかしかった、なんてことはありませんでしたか?」
「え?」
「例えば、ほら。薬のようなものをやっていたとか、鬱のような症状があったとか」
向けられる好奇の目。
それに心の底から嫌悪感を感じた私は、漸くそこで、その男の人がマスコミ関連の人なのだということに気がついた。