「力及ばず、申し訳ありません……ご主人は、今夜が峠でしょう」



手術室から出てきたお父さんは個室に移され、それを呆然と見ていたところで、お母さんが漸く戻ってきた。


たくさんのチューブに繋がれて、顔も見ることもままならないほど包帯を巻かれたお父さんの前で、白衣を着たお医者さんが私達にそう言って頭を下げた。


今夜が、峠。

そんなの、ドラマで何度も耳にしたことがあるけれど、大抵の人は奇跡的な復活を遂げると決まってる。


だからきっと、お父さんも大丈夫。


絶対に、大丈夫に決まってる。


そう信じて、何度も何度もお父さんの無事を願った。


夜も眠らず、お父さんの無事だけを願った。


そうして、明け方───


お父さんは、私達に看取られながら静かに帰らぬ人となった。