「……すみません、平塚さんの奥様ですか?少しお伺いしたいことがございまして─── 」



病院に着いてしばらくして、手術中の赤いランプが点いている扉の前へと案内された私達のところへ、黒いスーツを着た男の人たちがやってきた。


その人たちの手には黒い革の手帳。


わけもわからぬままお母さんとその人たちを交互に見つめれば、お母さんは「わかりました」とだけ言葉を零して、静かに立ち上がった。



「お……お母さん?」


「ごめんね、栞。ちょっと、そこでお父さんのこと、待っててくれる?」



「大丈夫だから」と。笑顔でそう言葉を残して、お母さんは黒いスーツを着た2人と、出て行った。


その後ろ姿と手術中のランプを見ながら、無力な私は何もできずに、ただただそこで一人、2人のことを待ち続けるしかなかった。