怖い?と。そう尋ねた先輩に、小さく鼻をすすりながら、静かに頷くことしかできなかった。


そうすれば、一度だけ溜め息を吐き出した先輩は、自身のカップに手をつけて、コーヒーを一口、口に含む。


そうして再び一呼吸置いた先輩は、何かを考えるかのように頬杖をつくと、自分の気持ちを確かめるようにゆっくりと、言葉を紡ぎ始めた。



「……俺も、怖かったよ」


「、」


「栞が壊れちゃうんじゃないか、って。栞の笑顔が消えちゃうんじゃないか……って、すごく怖くて仕方がなかった」



言いながら、悲しげに微笑んだ先輩に、再び涙が込み上げる。



「こんなことになるまで気付いてあげられなかったこと。気付けなかったことに、心底後悔した。
……もう、こんな後悔は絶対にしたくない。もう、こんな風に不安になるのは嫌なんだ」


「……っ、」


「……だから、さ。こんな臆病者な俺のために、栞の抱えている苦しみを、話してくれない?」