「……っ」
─── 絶対に、泣くもんか。
泣いてなんか、やらない。
心にそう言い聞かせながら、私を見下ろす蓮司を真っ直ぐに見上げた。
そうすれば、そんな私の様子に蓮司が慄いて、息を呑んだのがわかる。
「しお、り……?」
一歩、後ろへと引かれた足。
痛いくらいに掴まれていた蓮司の手から力が抜けた瞬間、ゆるく、振り払うように腕を引いた。
そして、ゆっくりと蓮司に背を向ける。
もう二度と、蓮司と笑いあったあの日々は戻らないのだと自分に言い聞かせながら。
もう二度と、言葉のナイフを受けぬようにと、蓮司との距離を離そうとすれば───
「……栞。思ったこと、ちゃんと話さないと後悔するよ?」
暗闇に響いた、樹生先輩の穏やかな声が、そんな私の身体を制した。