今は、先輩のその聡明さが恨めしい。


だって、初対面だというのに敵意を剥き出しにしている蓮司との喧嘩の原因も。


蓮司が先輩に敵意を向けている理由も何もかも、樹生先輩はきっと、気付いてしまったに違いないから。



「喧嘩の原因も……、そういうことか」


「……っ、」



違う、そうじゃない、先輩のせいじゃない。


聡い先輩の“声”に、今すぐにでも全てを否定したいのにやっぱり声は出てくれなくて。


思わず先輩の手を掴めば、掴んだその手の冷たさに、今度こそ本当に涙が零れそうになった。