「家にいても、いつも携帯を手放さなくて。病院から呼ばれたら、例え夜中でも家を出て行く。たまにゆっくり家にいるかと思えば、書斎でたくさんの本を読んで勉強している父さんの背中を、幼い頃の俺はずっと見てた」
「……、」
「こんなこと、高校生の息子が言うのは気持ち悪いって思うかもしれないけど……でも、そんな医者である父さんは、俺の憧れだった」
「樹生……」
「振り向いてはもらえなかったから、父さんがどんな表情で仕事をしてたのかは、わからない。でも……いつか、いつか父さんを追い越したら……父さんの顔も、見れるだろ?」
「……っ、」
「そしたら……今度はきっと、間違えない。俺も、父さんも。もう二度と、現実から逃げることもなくなると思うんだ」
子供の俺が、こんなことを言うのは生意気にも程があるとわかってはいるけど。
だけど、少しでもいいから父にも気付いて欲しかった。
知ってほしかったんだ。
真っ直ぐに歩いてきたその道の途中で、落としたものの存在に。
決して見落としてはいけなかったことの存在に。