─── 夏の夜は、まだ遠かった。


しばらく涙を流していた栞が落ち着いた頃、二人で図書館を後にした。


今が冬であれば、もうとっくに日が沈んでいる時間。


栞を遅くまで連れ回すわけにはいかないし、俺達はほんの少しの遠回りをしながら、栞の家までの道程を肩を並べて歩いた。


話したいこともあった。

伝えたい、栞にだけは伝えなければいけないと思うことがあったから。


あの日、栞に投げ掛けられた言葉を受け止めるには、数日という時間が必要だった。


頑なに凝り固まった気持ちは簡単には解れてはくれなくて、途中……また、繰り返すように目を背けたくもなった。


だけど、もう逃げたくない。

もう一度だけ。もう一度だけ、信じてみよう。

栞の言葉に、もう一度だけ生まれたばかりの自分に“愛情”をくれた両親のことを、信じたいと思ったんだ。