「……ずっと、逃げてたんだ。両親とのこと、自分の……現実から」
ぽつり、ぽつりと紡がれていく先輩の言葉全てを、零さぬよう必死に拾い上げていく。
「小さい頃は、音のない部屋に帰って来るのが寂しくて……勉強だって何だって精一杯頑張って、両親に何とか自分を見てもらおうと必死だった」
先輩の灯す声に、必死に耳を澄ませる。
「だけど、どんなに頑張っても両親に振り向いてもらえることはなくて。いつしか俺は、そんな親からの愛情を諦めて、現実から目を背けるようになった」
先輩が今日まで感じてきた寂しさ、哀しみ、切望。
その全てを想えば胸が締め付けられるように痛んで、何も気付かずにいた自分に悔しさばかりが滲んだ。