「……っ、」
ゆっくりと。身体を起こした先輩は、何を言うでもなく私から目を逸らした。
頬には涙の雫が零れた跡だけが残り、それを消し去るように先輩は無言のまま袖口でその跡を拭う。
それと同時、遠くで乾燥機と一緒にセットしたタイマーの、“タイムオーバー”を告げる音が聞こえて。
「……もう、帰りなよ。俺は、今日は送ってあげられそうもないけど……ごめん」
「……、」
「外、暗いと思うし……なるべく、明るい道を帰るか、駅まで行ったらご両親を呼んで」
ぽつり、先輩が消え入るような声でそんな言葉を零し、思わず私も息を呑む。
(……ああ、先輩は、こんな時まで)
こんな時まで、人のことを気にして気遣ってしまうんだ。
自分が苦しい時くらい、周りの人のことなんか考えなくていいのに。
もっと、自分勝手でいいのに。