お互いを見ない2人を前に、苦しんで。
自分を見てくれないことに、寂しさを抱えて。
それでも、少しでもいいから、自分を見てほしくて。
先輩は、何度も何度も手を伸ばしたんじゃないかな。
何度も何度も、2人の声を聞こうとしたんじゃないかな。
─── だからこそ、今の先輩がいるんだろう。
いつだって先回りをして、人の気持ちばかりを考えて。
自分の声を押し殺し、必死に相手の声を聞こうとする。
だって、そうでなければこんな風に人の気持ちや言葉、声に敏感な先輩でいるはずがない。
そう考えれば先輩が持つ、繊細な優しさの全てに、納得がいくような気がした。
樹生先輩という目の前で静かに涙を零す彼の、彼になるまでの道程が見えた気がしたんだ。