先輩に。

今の私の言葉が伝わったかは、わからない。


口の動きだけで、今の私の言葉を先輩が読み取ってくれたかはわからないけれど。



「……っ、」



それでも頬に触れた私の手には、先輩の目から零れた“雨”が落ちてきた。


頬を伝い、じわりと指先から私の心に染み込むそれは、樹生先輩の“声”。



苦しい。

寂しい。

こっちを向いて。



そう思えば胸は苦しいくらいに締め付けられて、私の目からも再び涙が溢れ出す。


両親に突き放され、孤独を抱えて生きてきた先輩。


それでもこうして、誰よりも人の気持ちに敏感な先輩のことを考えた。


……きっと、幼い頃の先輩は。


ご両親に認められたくて、少しでも振り向いてもらいたくて。2人に、懸命に歩み寄ったんじゃないかと思う。