吐き捨てるようにそう言った先輩の目が、悲しみに染まっていく。
それなのに笑顔を浮かべている先輩の手は、まるで氷のように冷たくて。
落ちてくる冷たい声が、刃のように私の心を切り裂いた。
「俺の親はね、不倫してたんだ」
「(不倫……?)」
「父も、母も。二人とも、ね。普通の家族のふれあいや、両親が笑いあっている記憶も俺にはないし、元々仕事で忙しい両親だったから、一緒の時間を過ごした記憶もほとんどない」
「……っ、」
「そんな両親は、俺が高校に上がると同時に離婚して、俺は父親に引き取られた。……離婚前は俺をどうするか、って酷かったよ、親権の擦り付けあい?結局、医者をやってる父が世間体も気にして引き取ることになった。まぁ……俺としては、どっちでもよかったから、成り行きに身を任せてたんだけど」
「……、」
「だけどさ、父は母が出て行ったと同時に、それまで愛人だった女を家に引き込んだ。いい年して、新婚気分でも味わいたかったんじゃない?そうなってくると、邪魔な俺をどうするか……って。結局、このアパートを用意して追い出したんだ」
「……、」



