……栞が、俺のことを。


信頼して、慕ってくれている上で─── ほんの少しの好意を抱いてくれていることに、気付かないほど自分は鈍感な人間ではないし、人の感情に疎くもなかった。


……少し前から、どことなく栞からの“好意”は感じていたけれど、敢えてそれに気付かないふりをした。


それをズルイと言われたら、なんの否定も出来ないけれど。


だからこそ今日まで俺なりに、朝のあの時間以外で自ら栞に連絡することはなかったし、そうすることで壁を作り、彼女を傷付けるような無駄な期待をさせないようにしてきたつもりだ。


聡い栞も、それを汲み取っていたんだと思う。


だから。

栞自身もある一定のラインを飛び越えてくる気配はなかったし、それなら俺が気をつけていれば大丈夫だと、鷹をくくってた。



……それなのに。

たった今、俺は自分からそのラインを超えそうになったんだ。