(嫌だっ、やめて……っ)



心の中で、何度も何度も抵抗の声を上げたけれど、それが言葉となって出ることは叶わない。


先ほど身体を捻ってしまったせいで私のお尻はドア横の座席の方へ向いてしまい、角度的に周りの人が気付いてくれる望みは薄い。


せめてもの抵抗でお尻を椅子の方へと押し付けてみたけれど、その手はどんなに潰されても引かれることはなかった。


私を囲うように立つ目の前のスーツ姿の男。この人が犯人であることは容易にわかる。


……でも。

顔を上げる、勇気がない。


犯人の顔を覚えなければいけないのに、恐怖が勝ってそんなことすら出来そうにない。


そんな私の臆病な心を、この人もわかっているのだ。