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ほとんど食器の入っていない食器棚からカップを2つ取り出すと、気まぐれで買っておいたココアの粉を無造作に入れ、トン……と、壁に背を預けた。
手だけを伸ばし、電気ケトルのスイッチを入れて、小さく息を吐く。
(……一瞬、危なかった)
正直なところ、女の子に慣れてないわけじゃない。
自分が人よりも多少、女の子受けする容姿であることも理解はしているつもりだ。
更にはコンビニという、実に身近かつ手軽なところでバイトしているせいか、そこでも何度か女の子から声を掛けられたり連絡先を渡されたことはあった。
……ただ、基本的に人との付き合いは、余程の事がない限り深くは関わらない。そう、決めているから。
上辺だけの付き合いで上手くいくなら、それ以上楽なことはないし、女の子に関しても面倒くさいことになりそうな関係は、なるべく避けて通ってきた。
真面目な付き合いをしたことがないといったら、最低でしかないけれど、お互いが傷付かない相手。
お互いがお互いの利点を叶えるためだけの、後腐れのない相手とだけ一線を越えた。