呼吸のぶつかるその距離と髪に触れた手に、途端早鐘を打つかのように高鳴りだした心臓。


見上げた先にある先輩の髪もまだ濡れていて、それがいつも以上に先輩を凄艶(せいえん)に魅せていた。



「……栞、おとなしくしてて?」


「……っ、」


「ん……、いい子」



掠れた甘い声でそんなことを囁かれ、思わず心臓が飛び跳ねた。


雨に濡れた私の髪を先輩が拭いてくれている。


その事実を思うだけでなんともいえない恥ずかしさが込み上げて、顔が熱を持っていくのがわかった。


─── 濡れたシャツ。

開いた胸元からは先輩の鎖骨が見えて、そこを雨の雫がなぞる。


それが、やけに色っぽくて、艶やかで。


こんな風に、突然の雨さえも味方にしてしまう先輩が、今は恨めしくて仕方ない。