「あ。アイスコーヒーの氷、大分溶けてる。こういうの見ると、もう夏が近いって現実を思い知らされるよね」


「(……先輩は、夏、嫌いなんですか?)」


「好きなように見える?夏って暑いだけじゃん。あ、夏休みは大歓迎だけど」



それから、それ以上その話題に触れることもなく、先輩とは日常に起きた些細なことをお互いに話した。


先輩の、お友達のこと。アルバイトのことや、授業やテスト、受験勉強のこと。


気が付けば、時計の針は6時限目の終わる時刻を指していて、公園の近くにある小学校からは下校時刻を知らせるチャイムの音が流れた。



「……もう、こんな時間か。2人でいると、時間経つのが早いね?」


「(……はい、本当に)」



……本当なら。

私が先輩を励まさなきゃいけないはずだったのに、結局私が励まされて、先輩の話は聞けなかった。


図書館で強く拳を握り、本棚の前で佇む先輩は、間違いなくいつもの先輩ではなかったのに。


それなのに、今の先輩があまりにも普通で。


あまりにも、いつも通りの先輩過ぎるから……



“……何も、ないよ”



あの一瞬だけ見せた思い詰めたような様子は、全部、私が見た夢だったんじゃないかとさえ思えてしまう。