ギターを返し、サビの原因を伝えると宮本が詳しいな、と感心したように褒めてくれる。
ぼくは曖昧に笑い、「知識だけはあるから」と、適当に誤魔化した。
これで話は終わり、かと思いきや、柳が弦の張り替えが分からないと言ってくる。
それに関しては専門外だ。
楽器屋に聞くなり、ネットで調べるなり、本を買うなりして欲しい。ぼくはギターなんて触ったことがない。触ったことなんてないんだ。
なのに柳は翌日、新しい弦を持ってぼくに張り方を教えて欲しいと頼んでくる。
何度も知らない、分からないと言っても、柳は真剣に頼んできた。
このままじゃ練習が上手くいかない。中井なら分かるだろう? そんな期待を込めてくる。
ぼくは自分のお節介にため息を零してしまう。
ギターなんて知らない、分からない。そう白を切ることもできたのに。
「柳。技術室に行って来い。ニッパーもなしに張り替えができっかよ」
あの教室は木材や金属の加工するために使用されている。工具も保管されているだろう。
嬉しそうに教室を飛び出した柳は、そう時間も空けずにニッパーを持って戻って来る。
それを受け取ったぼくは、柳のエレキギターを確認する。
ギターのタイプによって張り替え方が違うからな。こいつのギターはスラストタイプか。
ぼくは張っている弦を緩めると、手際よくニッパーでそれを切る。
まじまじと観察してくる柳と宮本の前で古い弦を取り外し、新しい弦をブリッジに通して、弦の長さを調節する。
作業をする間にも弦の張り替えをしたことがないふたりに、一つ一つやり方を説明してやる。
弦のどこを切ればいいのか、どうやって新しい弦を伸ばすのか、弦の巻き方と余った部分のカットの仕方。
どれも時間を掛けて丁寧に教えてやる。
張り替えの仕上げはチューニングだ。
その道具を持っているか、柳に聞くと、「なんだっけそれ」と返された。
おいおい、それも知らないでギターをしていたのかよ。