「志穂。お前の夢の話だが、わたしはきっと、これからも理解をしてやることができないだろう」
お父さんは語る。
あの時の仕打ちに対しては、頭に血がのぼっていたとは言え、やって良いことではなかった。それについては謝罪したい。
けれど、夢の話はべつだ。
仲井さんが目指す夢は人と違う生き方であり、普通ではない。
必ず成功するかも分からない夢を主張されても、親としては心配が先立ち、応援はおろか理解すらできない。
絵を描かない人間だからこそ、理解してやれない。
親は子どもの幸せを第一に考え、普通の生き方を望んでしまうのだ。
また仲井さんが絵を描いている背景には、常にお母さんの死があった。
お父さんは心配していた。
死ぬ直前まで絵にかじりついていた仲井さんを。
憑りつかれているように絵を描く姿は、母恋しさだと思ったし、母の死から逃れるためだとも思った。
「どこかでこうも思っていた。父親では、娘の寂しさを拭えないのだろう、と」
「そ、そんなことないよ……お父さん。わたしのために沢山のことをしてくれたよ。六年生の時の遠足は、お父さんがお弁当を作ってくれたし……中学校の制服選びだって一緒にしてくれた。お母さんがいない分、お父さんがしてくれていたことは知っているの」
そんな父が大好きだと仲井さん。好きだからこそ、夢を否定されて悲しかったし、話を聞いてもらえなくてつらかったのだと返す。