家に帰ったぼくはイラストの雑誌を眺めて、盛大な溜息をこぼす。


みんな上手いってレベルじゃない。

ぼくから言わせてもらえば、「プロですか?」と、問いたくなるイラストばっかり。

落書きだってまともに描けないぼくだ。


本気を出したところで、仲井さんに笑われる絵しか描けないだろう。


諦めるか。

脳裏に過ぎる気持ちは、仲井さんの気持ちによって遮られる。心の奥底で疼いている。絵が描きたい、上手になりたい、もっと上を目指したい、と。

「彼女がスポーツ好きなら、まだ共感もできるのに。あーあ、絵を描きたいとか、ぼくには分からない気持ちだよ」

その気持ちが自分に宿っているのだから、困ったものだ。


あんまりにもしつこいから、ぼくは腰を上げざるを得なかった。


どうせ笑われるだろうけど、やれるところまでやってみよう。

半分以上は仲井さんの気持ちのせいだと言い訳を口にしながら。



とはいえ、本気で絵を描いたことも、イラストそのものにも関わったことないぼくだ。

美術の授業すら適当に過ごしていたのだから、何を描けばいいのか分からない。

「美術で何をやったっけ?」

ぼくは必死に授業内容を思い出し、ふと本棚に仕舞っている映画雑誌に目を向けた。

「そうだ。雑誌を描こう」




それから三日という時間を費やして、ルーズリーフに雑誌を描いた。

表紙とか、ページの中身とか、そういうものじゃなく、雑誌そのものを描いた。

いわゆるデッサンというあれだ。

デッサンなら授業でもやったことがあるし、絵が描けないぼくでも、なんとなく絵になりそうな気がした。

そう気がしただけで、実際は全然だめだったけどね。


上手いとか下手とか、それ以前の話だ。

ネットで調べながら挑戦したのはいいけど、構図も、線のタッチも、影の付け方も、センスが無さ過ぎて泣けた。


だってしょうがないだろう? 今まで絵なんて興味すらなかったんだから。

描いてはファイルに入れ込んで、新しいルーズリーフを用意する。


それの繰り返しだ。

睡眠時間を削って挑戦し続けるぼくも“ナカナカ”だけに諦めが悪い。


でも、正直絵を描いている時間は楽しかったよ。

これも仲井さんの気持ちがあるからかな? はじめて知る気持ちに、少しだけ気持ちが入れ替わって良かったかもしれない、と思えた。