妙にギスギスとした空気を肌で感じながら、ぼくは周囲に目を配って話題を探す。
目に映るのは、長い廊下と行き交う生徒。
窓から差し込む日差しの強さは、まだまだ夏を思わせる。
蝉の鳴き声にまじって、かすかに生徒達の会話も耳に入る。
学園祭、と単語が聞こえたぼくは、これだと話を切り出す。
共通の話題として違和感もないだろう。
「一ヶ月半後に学園祭があるね。ぼく達のクラスは模擬店でワッフルを出すことが決まっているけど、準備とかまったくしていないよな。間に合うのかな?」
突然、振られた仲井さんは戸惑ったように眉を下げた。
「学園祭の準備期間はあると思うよ。ただ、わたしも初めてだから、どのくらいから準備を始めるのかは分からないかな。ステージで出し物をする人達は、夏休み期間中にちょっとずつ練習をしていたみたいだけど」
「なんで、うちの学校は学園祭と体育祭が交互にあるんだろうな。せっかくなら、どっちも楽しみたいのに」
ぼくの通っている高校はこの時期に、学園祭か体育祭が行われる。
それは年によって違い、学園祭があった翌年は体育祭、その翌年は学園祭、と交互に行われる仕組みになっている。
その代わり、予算は他の学校よりも多く、豪華だと聞いたことがある。
どっちもビッグイベントで時間が掛かるから、一年に二イベントもしたくないのかもしれない。
ぼくは勉強よりイベントの方が好きだから、低予算でも学園祭と体育祭を両方して欲しい派だ。
それを仲井さんに言うと、彼女はしかめっ面を作った。
「体育祭は文系の子の活躍が少ないから嫌だよ。わたしは足が遅いし、むだに練習はあるし、体育が得意な子は怖くなるし」
「でもあの雰囲気は楽しくない? ぼくは好きだよ。確かに練習はだるいけど……今年は学園祭か。あ、仲井さんの活躍の場があるじゃん」
軽く手を叩き、模擬店の看板作りがあると指を立てる。
あれは絵が上手い子の活躍する場面だと思うんだ。
ぼくが中学生の時は体育祭や学園祭があると、クラスごとにパネルを作った。
それを担当するのは、もっぱら絵が好きな子や上手な子だった。まさに仲井さんにぴったりの役だ。
「仲井さんは絵がむっちゃ好きだろ? やってみれば?」
「今は中井くんがその気持ちを取ったけど……」
取ったんじゃなくて入れ替わったんだって。人聞きの悪い。