B先輩の選ぶ人は、みんな大人で、経験豊かで。

私はどう見たって、ただよく構ってもらってる後輩か、世話を焼いてもらってる程度のポジションで。

それなのに、一人前のふりしてこんな想い抱いたところで。

みじめどころか、滑稽って言える。



「泣かないでよ…」

「ごめん…」



加治くんの困り声に、私はぽろっと頬を伝った涙を手で拭った。

憧れでよかったの。

ちょっと変わった、でも優しい先輩に、たまに仲よくしてもらって、浮かれてるだけで十分幸せだった。


つないだ右手が、ぎゅっと握られる。



「俺はみずほちゃんが好きだよ」



グスグスとすすりあげながら視線を上げると、快活な瞳が間近にあって、あ、と思った瞬間、唇に軽いキスが来た。

まばらに人の通る道端で、私たちはきっと、ちょっと周りの見えなくなったカップルくらいに思われているだろう。

突然のことだったので、どう反応したらいいのか決めかねて、じっとしていると、なぜか加治くんまできょとんとする。



「あれ?」

「“あれ”?」

「…嫌がらないの?」

「どうして嫌がるの?」



問い返すと、日焼けした顔が少しふくれて、私を見おろした。



「好きでもない奴からキスされたら、普通嫌がらない?」

「嫌いな人からなら、そうかもしれないけど…」



加治くんだったら、びっくりはするけど別に、嫌とは思わない。

正直にそう言うと、なんでかため息をつかれた。



「予定が狂った」

「予定があったの?」

「嫌がられて、ほらやっぱりあの先輩のこと好きなんじゃんって自覚させてあげて、俺もあきらめつく、みたいな」



思わず笑った。

あるある、とうなずくと、あるあるじゃないよ、と頭を軽く叩かれる。

涙の残りを拭きながら、彼に伝えた。



「自覚はもう、あったみたい…」

「そっか」

「ごめんね、加治くん」