「エプロン姿を見てから帰ろうかと」

「レジ対応もお見せしますので、ぜひ何かお買い求めください」



意外と商人、と加治くんが笑う。

彼が寄せてくれる気持ちは、嬉しいけど、やっぱり時々申し訳なさが募る。

でも加治くんはこうして、私と友達みたいにつきあうことを望んでくれているらしくて。

それが正解なのかはわからないけど、私も、彼と一緒にいると楽しいという気持ちを、隠さないようにしていた。



「加治くんて、何読むの?」

「俺けっこう、小説好きだよ、軽いミステリとか」



そうなんだ、と嬉しくなった。

B先輩もたぶん本好きだ。

いつも何かしら読んでいて、押入れにも山ほど本が積まれていた。

と考えて、加治くんへの罪悪感でいっぱいになった。

もう…と自分の思考回路を戒める。


みずほちゃんは? と加治くんが尋ねてきた時、道路沿いのアパートから、物音がした。

ドアが開いて、人が出てくる音。

じゃあね、という会話がかすかに届いただけなのに、私の耳は敏感に反応した。

見ればやっぱり、B先輩だ。


私は喜んでいいのか複雑な気分だった。

先輩は、どう見たって女の人の部屋から出てきたところだったからだ。


横に長い、綺麗なアパートの2階の部屋の玄関口で、先輩と女の人が話しているのが見える。

靴を履く先輩のためにドアを支えている女の人は、キャミソール一枚で、肩まである髪が濡れていた。



「みずほちゃん、行こう」



腕を引く加治くんに従いたかったけれど、私の目は、釘付けになったように、その光景に縛りつけられて離せない。

靴を履き終えた先輩が、ふいに女の人をドアに押しつけて、キスをした。

女の人がよろけて頭をぶつける、ガンという音がここまで聞こえた。


ふたりはおかしそうに笑って、また唇を重ねる。

先輩は優しく相手の腰を抱いて、ゆっくりゆっくり、お互いに楽しむようなキスをしていた。