水色なのも、オレンジなのも、このボールの真実で。

そんなふうに、本当のことって、きっとひとつじゃない。


そう思うことにします、先輩が言うなら。

先輩の言葉なら、信じられるから。



「それ、甥っ子ちゃん、喜んでくれるでしょうか」

「くれると思うよー。今度忘れずに持って帰らないと」



再び歩きだした先輩が高くほうった、オレンジのボールは。

くるんと一度ふくらんで、空と同じ色に染まった。





海辺の町で、先輩と離れるのが残念で仕方なくなった私は、合宿所までの帰り道、少しでもお話していこうと試みた。



『こちらには、いつまで?』

『お盆が明けたら、すぐ帰るよ』

『…夏休みはバイトで忙しいですか?』

『バイトもするけど、学校も行かなきゃだなあ。ゼミの研究発表が、休み明けすぐなんだ』



え、と思わず身を乗り出してしまう。



『どのくらい行きますか』

『少なくとも、週一は行くよ。グループのミーティングがあるから』



心の中で、鐘が鳴った。

荘厳なのじゃなく、商店街のくじ引きとか、あっちの。

ああもう、早く言ってください、神様!


というわけで、テニスの練習がある日は大学に行って、先輩に会えないかなと期待した。

実際会えるから、否応なしに気分は上がる。

当分会えないと思っていたぶん、よけいに。


学校の近くの本屋さんで雇ってもらうこともできて、私はまさに、学生生活を謳歌していた。








「へえ、あの書店、揃えがコアでいいよね」

「ここの学生御用達だから、みずほ、マスコットになっちゃうかもよ」

「そこはせめて看板娘だろ」



テニスで流した汗をシャワーで洗い落とし、さっぱりした身体で駅への道を歩く。

私のバイト先であるお店は駅の向こう側にあり、自分のバイトがある真衣子は、じゃあねと改札前で別れた。

加治くんはなぜか、お店まで送ってくれるつもりらしい。