「単に、いらなかったのかな」
「先輩が持っていると、いろいろな人が見るので、せっかくならそうやって広めようと思ったんじゃないでしょうか」
「確かに、さっきからすっごい声かけられる」
そうだろう、だって目立つもん。
たぶんその人は、飽きたか何かで手放そうとして、一番面白い手放しかたを思いついたってだけだろう。
先輩が、特にこういうのを好きそうとは思わないけど、いらないと言わなそうなイメージならある。
「実家、どうだった?」
「…あの」
その、と言葉に詰まりながら、家での話を説明する。
校門までの道、先輩は時折あいづちを挟みつつ、要領を得ない説明を聞いてくれた。
「…要するに、あんまりしっくりは来なくて。小さい話じゃないんだなって、なんとなく感じたくらいで」
「最初は、そんなものなのかもしれないよ」
「時間がかかることですか?」
「きっとね」
…そうか。
じゃあ母たちの腹づもりとは別に、いずれにせよ私がはたちになるくらいまでは、もつれこむ話だったのかもしれない。
「自分はもっと、聞き分けのいい人間かと思ってました」
思わずため息をつくと、先輩がふと足をとめた。
見あげると、柔らかい瞳が、諭すように私を見る。
「ご両親の愛情を、疑ったらダメだよ」
ぎくっとした。
私が納得できない、心の奥底の理由を、見抜かれた気がしたから。
私ですら、途中まで気づかなかった、この想いを。
――私を本当に愛してた?
いつから嘘だった? もしかしてだいぶ前から嘘だった?
私がふたりの人生を邪魔してた?
手を離れるまでの辛抱だって、仕方なく可愛がってくれてた?
すねて、何もかもが気に入らなくなった子供みたいなその考えが恥ずかしくて、先輩の目を見られずにうつむいた。