「B先輩!」
声をかけると、手のひらサイズのボールで遊びながら歩いていた先輩が、くるんと振り向いた。
私を見るとにこりと微笑んで、追いつくのを待ってくれる。
「なんですか、そのボール?」
「何色に見える?」
え?
目の前にかざされたプラスチック製のボールは、どう見たって。
「…水色です」
だよね、と言って先輩は前置きもなく、ぽんと私に向かってそれを投げる。
慌てて受けとめたボールは、オレンジ色をしていた。
「え!?」
「はい、もう一回」
ひらひらと片手を振る先輩に、投げ返す。
ボールは空中でふわりとふくらみ、再び水色になって先輩の手の中に落ちた。
わかった、いくつかのパーツが組み合わさったこのボール、投げると遠心力で部品が回転し、色が変わるのだ。
「面白いです! どうされたんですか?」
「さっき、人がくれたんだ、いきなり。俺、こういうの好きそうなイメージ?」
ポンポンと投げては色を変えて遊びながらも、先輩が不思議そうに首をひねる。
「甥っ子ちゃんへ、ということでは?」
「俺、甥っ子がいるなんて、誰にも言ってないよ」
ふわっと頬が熱くなった。
先輩、そういうの、やめてください。
嬉しすぎて、どうしたらいいのかわからなくなるので。
何か、期待してしまいそうになるので。