兄はあと二年間は学生だし、その後うまくいったとしても、数年は想像もつかない激務のはずだ。

それを支えてくれる相手がいたら、安心なのに。

母たちの勝手が、兄の幸せにまで暗い影響を及ぼしたような気がして、私は少し、腹立たしくなった。



「お前はどうなの、大学で誰か寄ってくる奴とか、いるの」

「えっ?」



突然訊かれて、流しそびれた。

なんて答えようか考えているうちに、みるみる顔が赤くなっていくのを感じる。

びっくりしたような兄の顔が、おもむろに険しくなった。



「変なのにつかまるんじゃないぞ」

「変なのって、どんなの?」

「やたら顔が広かったり、やたら優しかったり、やたら女と噂があったりするような奴だ」



B先輩、全部あてはまる。

言いかたひとつで、ずいぶん変わるもんだなと考えつつ、何も言えずにいると、ため息をつかれた。



「お前は、変に突っ走るだけの度胸があるから、心配だ」

「私のこと、前のめりって言う友達ができたの」

「それはよく見てくれてる子だ。大事にしろ」



はい。

従順にうなずくと、兄が微笑む。

いつもの兄に戻ったことに安心しつつ、私はこっそりため息をついた。


なんだか、思ったより物事がクリアに進まない。

けじめにうるさい父と母は、こんな時もきっちりと線引きをし、ある部分からは「子供の知ることじゃない」と立ち入らせてくれない。

そりゃそうなんだけど。

こっちも、納得できるだけの材料がほしい。


両親は、仲が悪いわけじゃない。

表面上は、これまでどおり。

それが怖い。

これまでも、心の奥では、ずっと離れることを考えてたのかもしれないってことだから。


私が、どうしたいか?

そんなの、まだ全然実感がなくて、思いつきもしない。


でもしいて言えば、訊きたいことがある。

ねえお父さん、お母さん。


私をどうしたい?