言葉と一緒に、涙が溢れて。

拭おうとする前に、煙草の匂いと、温かい腕に包まれた。



「先輩…」

「ご両親としなくなったのは、高校生くらいから?」



抱きしめられながら、何が? とぽかんとしていると、じゃあ4回かなあ、と耳元で何か数える声がする。



「ほっぺたでいい?」

「え?」



理解できずにいるうちに、濡れた頬に柔らかい感触が押しあてられた。

反対側の頬に、もう一度。

少し上がって、目じりのあたりに、三回目。


何か大事なものみたいに、ぎゅっと私を抱きしめながら。

頭をなでて、優しいキスを降らせてくれる。


最後ね、と宣言されたキスは、ゆっくりと左の頬に触れて。

親しげな音を立てて、離れていった。



「19歳、おめでと」



月の光に照らされて、先輩の瞳がにこりと微笑む。

鮮明にそれが見えて、私はいつの間にか涙がとまっていたことに、気がついた。


先輩、残念ながら。

あなたからのキスとハグは、家族のそれの代わりには、なりません。

だって全然、違いました、私にとって。

安心するどころか、もうやめてと叫びたいくらいドキドキしてました。

でも心地よくて、ずっとこうしててって、すがってねだりたくなりました。

そんなの、家族相手にはありえない。


先輩は、まだぐずぐずとハナをすする私から手を離すと、腕時計を月明かりにかざしながら読んで。

もうほんとに誕生日だよ、と文字盤を私に見せてくれた。



「落ち着いた? みんなが心配する前に、戻ろ」



残った涙を手の甲で拭って、うなずく。

手を引いてくれる先輩に従って立ちあがると、まだ残っていたお酒をぐいとあおった先輩が、はい、と渡してくれた。

今さらながら、この奔放な行動に笑う。

これじゃただの酔っぱらいだ。