「それは、訊いてみないとわからないから、勝手に考えちゃダメだよ」

「でも、仲のいい家族だったんです。クリスマスだって誕生日だって、いつだって全員でお祝いして」



キスとハグに満ちた家庭だったんです。

いつしか兄や私がそれを嫌がるようになって、親たちも渋々あきらめたけれど。

そう言えばいつから、あんなふうに触れあうのをやめてしまったんだろう。

私たちが嫌がらなければ、両親の間にできた溝は、深まるのをもう少し、待っていてくれただろうか。


私のせいなのかもしれない。

わがままな末娘がようやく家を出て、それまで家族ごっこをしていただけだったことに、気がついてしまったのかもしれない。

私のせいかもしれない。

私が家を出たせいで。


その時はっと気がついた。


両親の勧めに耳も貸さずに、家を出ることばかり主張して、自分勝手に今の大学を受けた。

それはつまり、私のほうが。

私のほうが先に、もう親はいらないって。

いらないって、言っちゃったのと同じ。


私のせいだ。


嗚咽を手の中で噛み殺して、溢れる涙に喉が詰まった。

私のせいだ。


でもじゃあ、だからどうだって言うの。

自分に責任があるのが嫌なの?

――自分のことばっかり!



「俺、思うんだけどね」



ふいに響いた柔らかい声に、我に返った。

身体を折って顔を覆った私の、素足に涙が次々落ちる。



「悩んだりとか、泣いたりとか、そういうのって、俺たちなんとなく、自分たちの年頃の特権みたいに思ってるとこ、あるよね」



足首の包帯と、足元の芝生を青く照らす月明かりを見つめながら、その声を聞いた。



「でもたぶん、人って一生そうなんだよ。一生、悩んで泣いて、迷ったり気づいたりするんだよ。親になったってそれは同じで」



ふっと息を吐く音に続いて、煙草の香りがあたりを包んだ。

その匂いに安心し、熱い目を閉じる。