「それで、ぼんやりしてたんだね」

「たぶん、そうかもしれません」



林道の横手にある、少し開けた休憩所で、先輩は私の話を聞いてくれた。

私は恥ずかしさに襲われて、顔を見られずにいた。

いきなり泣きだすなんて、何かあったのと訊いてくださいと言ってるようなものじゃないか。

真衣子、私はやっぱり、ただの構ってちゃんでした。


それに、これまで聞いた断片的な話から、うっすら想像する限りでは。

先輩に、ご両親はいない。


そんな先輩に、こんな幼稚な話をするなんて。

無神経でずうずうしい私。


だけど先輩は、急かすでもなく口を挟むでもなく、とりとめのない私の話を、じっと聞いてくれた。



「なんで泣いたの?」

「わかりません…」



ベンチに座って、煙草をふかしながら、先輩が微笑む。



「理由はあるはずだよ。ちゃんと考えてあげないと」

「…ショックで、でしょうか」

「何がショック?」

「家族が…いろいろと、変わってしまうことが」



それだけ? と組んだ脚に腕を置いて、私をのぞきこんできた。

ようやく涙がとまった私は、確かに果たしてそれだけだろうか、と自分の心を探ってみる。



「直接話してもらえなかったのも、ショックでした」

「だろうね」

「なんていうか、数に入れられてないみたいで。でも実際、私は子供なので、それも仕方ないのかなって」



うん、と促すようにうなずいてくれる先輩に背中を押された気分で、私はひたすら、思いつくままに喋った。


親が、親であることをやめるという選択が、すごく無責任な気がして、それが嫌で。

でも彼らだって人間なのに、そんなふうにしか思えない自分が、狭量な気がして、それも嫌で。

いったいいつからそんなことを考えていたのかわからなくて、それももやもやしている一因で。

私の信じてた両親の間の愛は、もしかしたら一部、嘘だったのかもと思うと、震えるほど怖くて。