「散歩しながら飲むと、回るの早くて効率いいでしょ」
「ここが、お散歩コースなんですか」
そんなわけないし、と低いつぶやきが返ってきたので、なんだか支離滅裂だなあと思っていると、先輩が小さく息をついた。
「俺、今、反省中なんだよね」
「何かあったんですか」
「昼間、ちょっとテンパって、別に何も悪いことしてない子に、きつくあたりました」
はあ、と脈絡のない話にぽかんとしながら、ついていく。
「怪我までしてたのに、たいしていたわりもせず、ひとりの部屋に放置してしまいました」
「…それは、もしかして桟橋から落ちた子ですか」
信じがたいよね、とぶっきらぼうな返事がある。
私はすっかり舞いあがって、足を速めて先輩に並んだ。
「どうしてテンパりましたか?」
「昨日と同じ子が来たって言うから、てっきり3歳児が来たかと思ったら、まさかの18歳児で」
「…それでそんなにテンパったんですか」
「血を流してたので」
顔も真っ青だったので、とぼそぼそつぶやく。
まだ不機嫌そうなその横顔に、胸がじんわり熱くなった。
先輩。
私の様子を、見に来てくれたんですね。
散歩というには遠すぎる、この距離を。
わざわざ歩いて、来てくれたんですね。
「その子は、先輩は十分すぎるほど優しかったって、思っているらしいですが」
「その子の言葉はあてにならないので、信じません。危ないことしないって約束したのに、こんな夜中にひとりで出歩くし」
完全に私の話になってるじゃないか。
耐えきれずに噴き出すと、先輩も照れくさそうに私を見て、笑った。
「ごめんね」
「いえ、私が悪かったんです。本当に申し訳ありませんでした」
「…怪我、どう?」