その光に呼ばれるように、ベッドを降りてシャツを羽織り、部屋着のショートパンツのまま、テラスから表に出た。

パーカーと同じく海に捨ててしまったので、新しく買ったビーチサンダルを鳴らしながら、昼間みたいに明るい、ロッジの前庭を歩く。

さんざん寝て汗ばんだ身体を、ひんやりした夜気が包んでくれた。


足の傷は、じんじんとうずいてはいるけれど、痛いというほどでもない。

ちょっと歩いてみようかな、と海岸へ下りる道に出た時。



「無茶しないって、約束したじゃん」



暗がりからふいに声をかけられて、飛びあがった。

驚きすぎて声も出せずにいると、頭上に茂った枝葉の影で見えなかったB先輩が、月明かりの下に現れた。

どこ行く気、と坂の下から不機嫌に訊いてくる。

その恰好は、大学と同じ、ジーンズにスニーカー、パーカーという久しぶりに見るもので。

懐かしさのあまり、私はまた、声が出なくなった。



「お祈りしてる場合じゃないでしょ」

「あの、満月が、大きいので、それで」



私はまた、無意識に胸の前で手を組んでいたらしい。

たどたどしく言い訳すると、先輩がふっと笑った。

笑った。



「どこ行こうとしてたの」

「…海岸まで」

「ダメ、傷に砂が入るよ。歩くならこっち行こう」



私が向かっていたのとは反対の、なだらかな登り坂を指して言う。

“行こう”ってことは、一緒に来てくれるってことだろうか。



「歩いちゃダメとは、言わないんですか」

「言ったってどうせ、歩くでしょ」



…あれっ、先輩の中で私って、そんなイメージになっちゃった?

先輩は歩をゆるめないまま私の横を通りすぎ、行こうと指した坂をのぼりはじめる。

追いかけた私は、先輩が何かビン入りの飲み物をくいっとあおったのを見て、あぜんとした。



「飲んでるんですか?」

「成人だもん、責められる理由はないよ」

「…酔ってるんですか?」



どうだろね、と振り向きもせず歩く足取りは、危なげない。

そう酔ってはいないんだろうか。

でもなんで、歩きながらお酒なんて。